第二章 真実

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「叔父さんが?」 「ずっと一人で結婚もしないで育ててくれて……自分は姉さん…僕のお母さんに育てて貰ったから、今度は俺の番だって……」 陸斗は冷めたコーヒーを一気に飲み干した。 「僕が高校を卒業したら、同じ会社の人と結婚する予定でした……半年前に、あの事故に逢わなければ……」 陸斗は持っていた紙コップを握り潰した。 「……事故って?」 陸斗は握り潰した紙コップを両手で持ち、俯いたまま祈るように額の上辺りに当てた。 「弘志叔父さんは、建築の設計士でした。たまたま立ち合いで行っていた建設現場で事故に巻き込まなければ……」 陸斗のしっかりとつぶられた瞼の隙間から、大粒の涙が頬を伝って顎から落ちた。一筋、二筋と滴り落ちる涙を拭き取りもせずに、震える声で続けた。 「ただ……頭の打ち所が悪かっただけ、後はたいした傷じゃなかった……それだけで……叔父さんは話さない、笑わない、起き上がらない……動か…ない……」 陸斗は秋吉に向き直り、涙で濡れた瞳で秋吉を見詰めた。 「僕は…これからも叔父さんと一緒です。母が叔父さんを守ったように、叔父さんが僕を守ったように……僕は叔父さんを守らなくてはいけない」 陸斗の声はどんどん声高になった。搾り出すように……涙を落としながら秋吉に問いただした。 「秋吉さん、あなたはこんな僕が……こんな過去のある僕が、人に夢を与える俳優って仕事が出来ると思うんですか?こんな僕に……!」 最後は悲鳴のようだった。場所柄、声は抑えていた。それでも、これは間違いなく陸斗の悲鳴だ。 秋吉は自分のバックから、真新しいタオルを出して陸斗の前に出した。 そのタオルを引き寄せ、陸斗は顔を被った。 秋吉は立ち上がり、窓際まで歩いた。 窓からは十両以上はあるだろうか、長い電車が走っているのが見えた。 陸斗が声をタオルで押し殺して、ひとしきり泣いて落ち着いた頃、秋吉は話し始めた。 「……相河君、大丈夫。君は俳優に成れるよ。僕には分かる」 窓辺に座り陸斗を振り返り見ると、まだ、タオルを口元に当てていた。 「これは俺の持論なんだけど、俳優には人を引き付けるものが必要だと思うんだ。陸斗君、君にはそれがある」 そうだ……それなんだ。 僕が陸斗君、君に感じていたのは……。
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