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秋吉の事務所は渋谷にあった。
陸斗と別れて、独り秋吉はクリスマスで賑わい始めた渋谷の繁華街を歩いていた。
宵の口に差し掛かった街には、よく見ればまだ中学生と思われる女の子達が、地べたに座りたむろっていた。サンタクロースの格好をした女の子から貰ったティッシュには、最近流行りだした飲食店の名前が書いてある。
秋吉はそのティッシュをポケットに捩込み、寒さから逃れようとマフラーを頭から被った。
兄貴か……こんな俺が兄貴か……。
自分でも全く思っていなかった言葉だった。思わず出た言葉に、自分自身でも分かっていなかった自分の本当の気持ちに気が付いた。
これで……俺も開放されるだろうか?……今がその時だったんだろうか……。
コートのポケットに入れていた携帯電話が震えた。
歩きながら、ポケットから取り出した。
「はい、秋吉です」
相手は事務所の社長だった。
「はい……OKです。連絡遅れてスイマセン。ちょっと手間取って……」
秋吉はコーヒーショップの前で立ち止まった。
「その件でちょっとお話したい事が……事務所に着いたら話しますので」
言って電話を切った。
「せっかちで参るよな……まったく」
小さく呟いた。
さあ、俺も彼と一緒に前に進もう……俺と夢を掴んで、ずっと笑っていような……相河陸斗。
秋吉はコーヒーショップに入っていった。
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