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「はい、はい……すいません……はい、はい。それじゃあ……」
秋吉は首から下げた携帯電話を、冴えないスーツの内ポケットに終いながら溜息をついた。
事務所の社長からの電話に悶々と、苛立ちを募らせていた。
「言わなくたって分かってるよ……」
小さなつぶやきだ。
「そんなに簡単に見付からないさ……あっ、まずい。間に合わなくなる」
事務所の後輩マネージャーから、まだまだグラビアしか出られない新人の女の子がぐずっているから助けて欲しいと連絡があったので、撮影現場の表参道に来ていた。
11月の初旬、街路樹は色づき落葉が歩道を秋色に染めている。
街はハロウィンのディスプレイも無くなり、クリスマスの準備に掛かろうと世の中は楽しげな雰囲気に包まれつつある中、秋吉は人探しをしていた。特定の“誰か”ではなく、なるべき人を。
「何だか最近の女の子は皆同じだよな……」
何処を見ても、髪をクルクル巻いて目の周りをアイラインで真っ黒に書いた“あらいぐま”を思わせる同じ化粧をした顔が、同じブランドのマフラーをして同じコーヒーショップの紙コップ片手に歩いている。
秋吉は女の子達を見ていたら、何だか喉が渇いたような気がしてきた。
そんなに急がなくても大丈夫かな……。
思い、女の子達のあまりいなそうなテイクアウト専門ショップに入った。
紙コップ片手に、足早に、けれど周囲を見ながら目的地に向かって歩いていた。
「地方にでも探しに行くかな……」
ドシッ!
周囲を見すぎて、路地から出てきた男子高校生の一団の一人とぶつかった。ぶつかった瞬間に、持っていた紙コップを落とし、男子高校生のズボンにかかってしまった。
「あちゃー、ごめんなさいね……」
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