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少年は名刺を見ながら少し首を傾げていたが、顔を上げ秋吉の目を見た。
「その事務所の方が、何か用ですか?」
この目だ!間違いない!
秋吉の胸は躍った。
「君、うちの事務所に入って俳優にならないか!」
「ひゃーー相河!スカウトだよ、スカウト!」
少年の友人が名刺を少年から取って、名刺と少年と秋吉を見比べた。
少年は自嘲したような笑顔を見せた。
「ごめんなさい、興味ありませんから。武田、行くぞ」
言うと軽く頭を下げ、背を向けて秋吉と友人 ― 武田を残して言ってしまった。
「あっ、相河!待ってくれ……」
追い掛けて行こうとした腕を掴む感触がした。振り返ると、秋吉が腕を掴んで‘ニッ’と笑いながら言った。
「武田君、ちょっと教えてくれるかな?」
「は…はい?!」
「彼、相河君かな?名前と学年教えてくれるかな?」
笑顔だったが、目が笑っていなかった。その迫力に負けて武田は話してしまった。
「あ…相河陸斗。高3……17歳」
「彼…相河陸斗君に言っておいて。僕は往生際が悪いから、諦めないよって」
言って秋吉は手を離すと、ひらひらと手を振って武田を後にした。
駅に向かって歩きながら、秋吉は思った。
やっと見つけた……絶対に落としてやるぞ!
決心して、小躍りしたくなるような気持ちで駅まで走った。
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