第二章 真実

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― 1 ― よし、今日こそ落としてやるぞー! 秋吉は手土産に事務所の近くにあるデパートでお菓子を買って下げている。 土曜日だったので、電車は遊びに行く人達が楽しそうにしていた。その中で、秋吉もはやる気持ちに歌でも歌いたかった。 駅に着いて改札口を出ようとしたら、後ろから秋吉を引き留める声がした。 「あの……秋吉さん」 振り向くと、杢グレーのパーカーにジーパン姿の相河陸斗が立っている。秋吉は恋人でも見付けたように‘ニッ’と笑った。 「相河君!待っていてくれたの?」 とぼけた質問だった。 相河陸斗は表情も変えずに応えた。 「会わせたい人がいるんので、来て下さい」 「おっ、ご両親に会わせてくれるの?行こうよ!」 やった! 思った秋吉は、今にでも改札口から出そうだったが、腕を取られて留まった。 取った相手、陸斗は憮然とした顔で溜め息をついた。 「……せっかちなんですね。隣の駅です」 そう言うと、背中を向けスタスタと秋吉を置いて先を歩いた。 「ああ、相河君待ってよ」 秋吉は小走りに追い掛けた。 電車の中でドア付近に立った二人は、秋吉が一方的に話し掛けていた。 「今日はいい天気で良かったよ」 陸斗は黙ってドアの硝子の向こうに見える景色を見ている。 「相河君、地味なんだね」 「普通の高校生って、こんなモノでしょ?」 「でも原宿あたりを歩いている子達なんか、頭金色だよ」 「そういう子がいいなら、そっちをスカウトしたらいいんじゃないですか……」 「僕は君がいいんだ」 秋吉はまた‘ニッ’と笑った。陸斗は視線を逸らして、外を見た。 「着きました」 言うと、ドアが開くと同時に先に出て歩いて行ってしまった。 「あぁ、相河君待って!………つれないなぁ……」 追って電車を降りると、走って陸斗を追い掛けた。 「……ここは?」 「見れば分かるでしょ?病院です」 「病院…って……」 陸斗が秋吉を連れて来たのは、駅から歩いて五分程の場所に建っている病院だった。 陸斗は無表情だった。 「行きますよ」 「ご両親のどちらか入院してるのーー、ちょっと待って!」 秋吉は、また、足早に先に行ってしまう陸斗を追い掛けた。 この子は何故こんなに先を急いでいるんだろう……。 秋吉は思わずにはいられなかった。
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