文化祭までもう少し。

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「ここに、いたんですか……。探しましたよ」  扉が開く音がして声の方を向くと、朱に染まった空がその人物の姿を影に変えている。  顔がまったく見えないが、この喋り方にこの声は間違いなくあいつだろう。 「……ああ、なんか用か? 凛」 「用がないと来たらいけなんですか? 章仁さん」  ゆっくりと優雅に近づいて来るその足音が俺の前で止まり、こちらを見下ろしてにっこりと微笑んでいた。  開け放った窓から吹き込む秋の風は、俺の頬を撫でて凛の髪を揺らす。  長く綺麗な髪が一本一本が風を纏い、赤い光をキラキラとうけて輝いて見える。不覚にもその姿を見てドキッとしてしまった。 「べ、べつにそう言うわけではないが……」  おっとりした口調ながら、中々ズバッとものを言う奴だよ……このお嬢さんは。  こいつは、クラスメイトの三嶋凛(みしま りん)。  ちょっと変わった――いや、かなり変わったお嬢様だ。  お嬢様と言っても、お金持ちではない。その綺麗な顔立ちと清楚な雰囲気からそう呼ばれているのだ。  学校では、知らぬ者はいないと言われている有名人で、しかも俺も込みでの有名人。しかし、いい意味ではなく変わり者で有名なのだ。少しずれた発想と天然ボケの持ち主でいつも廻りにちょっとした迷惑をかけている。でも、それが可愛いと男子の間では評判で、ファンクラブまである始末。  俺も可愛いと思う訳だが、お願いだから俺を変な道に引っ張りこむのは、やめてくれ。  普通に接してくれたらどんなに嬉しい事か。でも、普通が出来ない子なんだよね、この子は……。 「ならいいですよね。と言っても、私も一応は用はありますよ」  何がいいのか、さっぱり分からないがこう言う物言いでも、嫌味に聞こえないのが不思議だ。 「それで……出来ましたか?」  両手を広げて首を振っている俺を呆れた様子で見ている凛だが、なんだか楽しそうだ。  俺が苦しんでいるのがそんなに楽しいのかね? いい趣味してるよ。 「あと、一週間ちょっとですよ? 文化祭」  あくまで他人事のように言い放つ凛だが、こいつも俺と同じ担当のはず。  今、この学校では文化祭の準備の為に毎日放課後はとても賑やかで、あちらこちらから聞こえる声は笑い声から怒鳴り声まで様々。それでも、みんなが一丸となって取り組んでいる姿は美しいものだが――。
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