文化祭までもう少し。

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「分かってるよ。と言うか、凛――お前も俺と同じ看板担当だろう? 手伝えよ」 「私は看板と衣装の担当です。今は衣装の最終打ち合わせが忙しいんですよ」 「あのなぁ……俺一人でどうしろって言うんだよ。――これを」 「最初は一緒に手伝っていたのですから、文句は言わないで下さい」  俺が指差すと、それを覗き込むように前屈みになり、しゃがみ込んでくる。  ちょっと覗き見える胸元にドキドキしてしまうが、一つ一つの動作がとても優雅で見ていてホレボレとしてしまう。  こう言うのを”大和撫子”と言うのか知れないが、凛の場合は何と言うか。 「ドキドキしないですか?」 「……何が?」 「お色気作戦……失敗」  このズレた発想と行動が無ければの話だけど……。  こいつの伝説は、色々と在りすぎてここでは全てを語り尽くせない。  とりあえず、飲み物と食べ物を用意してソファに腰掛けてゆっくりすれば、六時間以上は喋れる自信がある。それぐらい、俺はこいつの伝説の片棒を担がされているわけだ。  『凛の姿あるところに、章仁あり』とまで言われているくらいだから、凛とは最早ワンセット扱い。俺達って、一体なんだろうな……。 「デザイン画はあるのですから、出来るんじゃないんですか?」 「いや……あのなぁ」  俺が指差しているのは、看板のデザイン図。  A4の用紙にカラフルな文字と奇抜な絵が描かれている。これが俺達のクラスでやる喫茶店の看板か、と思うと涙が出そうだ。どうみても悪趣味な夜の店の看板だ。どこの世界に『喫茶・幻慈蛍』って、場末のスナックみたいな名前を文化祭でつける奴がいるんだよ。しかも、普通に読めないだろうって……これ。誰がこれを「げんじぼたる」って読めるのか、教えて欲しいぞ。 「まあ――素敵な名前ですね」 「あのなあ。……やっぱ、お前すげえわ」 「何がですか?」 「いや、別に」  これを見て素敵な名前って言える、お前のセンスの方がすごい。  これをデザインした奴が「幻を慈しむ蛍」って言ってたけど、意味が分からなかった。  決して、これは俺が描いた訳ではないぞ?  このデザイン画はクラスメイトが喜んで描いたもので、俺はデザイン画を元に看板を作成する担当と言う訳だが――俺一人で何が出来るよ?  大体、看板作りに担当二人ってどういう事だよ? クラスに何人いると思ってんだよ……四十人だぞ?
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