文化祭までもう少し。

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「それでは、どれからいきますか?」 「どれからもないだろ……。まったく出来てないんだからよ」 「本当ですね。綺麗な色したベニアの板ですね」 「嫌味か……それ」  俺達が座っている前には、大きなベニア板が一枚。  一メートル四方の大きさで綺麗に木の色をしている。そして、この上に白い紙を張ってそれに描いて行くんだが、それすら張ってない状態。  つまり、何も進んでいない。  下書きすら出来ていない状態なのだ。さすがにこれはまずいと、ずっと悩んでいるわけだが。 「それでは、まずは下書きからしましょう。それをしないと進みませんよ?」 「そうしたいのは、山々なんだが……ほら」 「なんですか? ……ん? これって、空白ですか?」  首を傾げながら見ている凛が、俺の持っているデザイン画から顔を上げて言うので俺は頷いていた。 「章仁さん……近いですよ。もう」 「それは、お前が近づき過ぎなんだよ……凛」  吐息がかかるくらいの距離で恥ずかしがる凛の瞳に、吸い込まれそうになってしまった。  だったら、そんなに近づくなよ。  それにいちいち顔を赤くするんじゃないよ。近づいてきているのは、お前の方だ。俺は一歩も動いてないし、身体も動かしてない。  お前の髪からシャンプーのいい香りが漂ってきて、俺も平常心保つのに大変なんだぞ。  俺をなんだと思っているんだよ……これでも、男だぞ? 人畜無害のヘタレ野郎ではないんだぞ。  時には、狼になったりするんだからな。 「これを描いた奴が、『あれは気に入らないから、少し変更したい』って、言い出したんだよ」 「それでは、何も出来ませんね」 「ああ……普通、描くなら中心からだろ? 端から描くとバランスが悪くなるし、おかしいだろ」  デザイン画の中央には、くり抜かれたように真っ白な部分がある。  その真ん中には以前は蛍の絵があった訳だが、これを描いたクラスメイトが気に入らないと言い出して結果、中央のみ仕上がり待ち。  それ以外の部分はほぼ決定らしいので描けと言われれば描けるが、それだと中央にどんなのがくるか分からないので、バランスが悪くなってしまう。只でさえ、このデザインは左右対称のようになっているので、中央にくる絵によっては尚更バランスが悪くなるだろう。  つまり、この状態で描くのはお手上げ。これが俺の一番の悩みであるという事だ。
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