72人が本棚に入れています
本棚に追加
/126ページ
少女はお嬢様といった空気を持っていて、金持ちの娘とかそういう類の人間である事は容易に想像できた。
「止めて下さい」とか細い声で言っている。
次の瞬間には「辞めろよ」と声が出ていた。
「ああっ?お前…海藤じゃねぇか。どうした。今、辞めろって言ったか」と主犯だと思われる及川真也が言った。
「嫌がってる。辞めた方がいい。先輩、そういうのは男にやるもんですよ」
彼らに目を付けられるのは問題だったが、彼女を助けるのが優先だと考えた。
「逃げるよ」と言って彼女の細い腕を掴んだ。
「あ、はい」と彼女は言った。
漫画のように「待ちやがれ」とか言って追いかけてくることはなかった。
実際、追いかける事をばかばかしいと思っているのだろう。
「大丈夫?」と自然な流れで訊いた。
「大丈夫です」と彼女がこっちを見た。
その瞬間、光一は凍りついた。
彼女は間違いなく、日本人同士の間に生まれた子だろう。
しかし、彼女の目は緑色をしていた。
驚いたが、それに触れるのは失礼だと考えて、質問はしなかった。
その日はそのまま、バスに乗り家に帰った。
それがいわゆる始まりになるとは考えもしなかった。
最初のコメントを投稿しよう!