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テキサス風バー "梵"。
稚内唯一のバーである。
鍵の無い木製の扉の為
泥棒や強盗による
店荒らしが頻繁で
赤字経営の波が続くが
知る人ぞ知る名店である。
テキサスサーファーの
求めているものを
ようやく見つけたのだ。
「これぞテキサス。」
渇いた大地に沸き立つ
一面のテキーラを発見した。
サーフボードを脇に抱え
扉を開けた。
「邪魔するよ。」
最初に目に入ったのは
カウンターで血を流して
ぶら下がっている
マフラー男の姿だった。
「おい!アンタ大丈夫か?」
テキサスが近づくと
血で染まった顔を
ゆっくりと上げた。
「心配ない。盗人にやられた。
ここじゃ毎度の事さ。」
テキサスは倒れていた
椅子を戻し 座り込んだ。
古い蓄音機から流れる
ユーロビートに乗せ
テキサスサーファーは
体を踊らせずにはいられない。
マフラー男は 汚れてくすんだ
グラスにテキーラを注ぎ
テキサスの前に差し出されると
彼は一気に飲み干した。
体に染み渡るテキーラは
枯れそうな花への
天からの授け
恵みの雨である。
「ありがとう。生き返ったよ。」
マフラー男は葉巻をくわえ
ライターで火を着けた。
「もう一杯くれ。それと
ホットドックはあるか?」
「テキーラは好きなだけ
飲んでいい。
余る程あるんだ。」
ボトルをテキサスのグラスの
前に置くと マフラー男は
奥のキッチンへ消えていった。
店の内装も木造で
鹿の剥製や 酔っ払った
気性荒いガンマン達が
喧嘩で付けたであろう
壁の傷や銃痕。
あくまでテキサスサーファー
自信の先入観念によるもの。
実際は雰囲気作りによる
マスターの演出である。
まさにテキサスの居場所である。
店内を見渡すと
一枚の写真とトロフィーが
ポルノ雑誌が押し込められた
雑な作りのブックボックスの
上に飾られていた。
"テキサス州
ガンマンコンテスト優勝
ゴンザレス 山中"
そうトロフィーに書かれている。
暫く掃除を怠っているのか
ホコリを被っている。
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