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ローウェーブであっても
テキサスサーファーには
関係はない。
彼は女性の前でボードを止め
身構えた。
同時にヒレも彼の向かいで
動きを止める。
彼は女性をクルーザーに
逃げるよう指示を出すも
ヒレからは目を離さない。
小波だけが響き
一人と一匹は暫く
沈黙を保っていた。
互いの出方を伺っている
様にも見える。
クルーザーに辿り着いた
女性はファック中の
仲間に状況を報せると
男はナニをしまい
操縦席へ一目散に向かい
直ぐ様クルーザーを走らせた。
女性は髪を靡かせながら
クルーザーから涙目で
彼の安否を確かめるが
無情にも距離は遠退いていく。
彼は気付いたのであろう
手で小さく合図を送った。
「今日はフカヒレスープだ。」
そう言い放ち 小さく
海を蹴ると ボードは
ヒレへと前進する。
彼は腕を持ち上げ
体制を低く構え
ヒレに向かって
鉄拳を放った。
海は大きな音を立て
巨大な水飛沫が上がる。
しかし ヒレは姿を消した。
上がった飛沫は
雨のように降り注ぎ
再び海に帰る。
周辺を見回しながら
静かにボードを泳がせる。
少し離れた場所からの
小さな波紋と水音を
彼は見逃さなかった。
その場所を目掛け一気に
距離を詰めたその時
全く逆の方向から
海を割って出てきたのは
巨大なキングサーモンである。
鮫だと思ったヒレの主が
キングサーモンであった事に
意表を突かれてしまった事で
一瞬 体の動きを
鈍らせてしまったが
最小限の動きで
ボードごと移動させ
キングサーモンの
突撃を肌のかすり一つに
押さえることが出来た。
そして彼は その化物魚の
実体を知るのである。
大きな体に生えている
筋肉質な腕と足は
水を弾かんばかりであり
魚という観念を覆した。
大きな目に 瞼からは
手入れが行き届いた
長いまつ毛が揃っていて
視線を横切る時の
赤いビキニは
彼の網膜に焼き付いたのだ。
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