眠り姫

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 私は夢を見る。  これは未来に幻視する類のものではない。  私は、仮定願望を夢に見るようになったのである。  願望の内容は何でもいい。分かりやすいところで言えばお金がもっとあればとか、もう少し頭がよかったらとか、そういう類の仮定の願望。私が見るのは、それによって生まれるIf(もしも)という虚構(せかい)。  それは場所や時間を問わず、仮定願望を思い描いた瞬間に私は忽然(こつぜん)と眠りに落ちて、夢の中でそれを現実とする。  初めのうちは眠りも一瞬で、生活にさほど支障もなかったから良かったものの、それも回数を重ねていくうちにそうは言っていられなくなった。  眠りからの目覚めは日をまたぐようになり、まともな生活は不可能になってしまう。お父様の判断で病院に入院することになったが異常な眠りの症状は一向に治ることはなかった。とにかく眠りに引きずり込まれないように、何も考えずにいようと努力はしてみたけれど、無駄なことだった。  人間自分がひどい状況に置かれれば、普段よりさらに強く仮定願望を思い描くもの。それがさらに状況を悪化させてしまう。  私の眠りは思い描いた仮定願望が強ければ強いだけ、眠りの時間を延ばして夢を見せてくる。だからもう際限なく眠りの時間が延びていってしまい、もはや無限地獄。  入院が始まった当初は目覚めた時に時間や日付を確認していたが、しだいにそれもしなくなった。過ぎ去ってしまった時間は否応なしに現実を突きつけてくるから、恐ろしくてとても直視なんて出来なくなったのだ。  そして私はただ病的なまでに真っ白な病院の個室の中で、壊れていく自分を抱き、いずれは目覚めなくなってしまうかもしれない現実に怯えながら、また夢へと誘(いざな)われていくのだった。
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