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さっきまで2人で過ごした部屋で、総長は天井を見上げた。無機質に煌めく硝子片が密集して形作られたシャンデリアが、節操なくあちらこちらに光を放っている。
無一文とは、リクらしいと思った。予想はつく。どうせ自分の為には遣っていない。
戦場で、たとえそれが魔族であったとはいえ、たとえ殺し殺されることが合意の上であったとはいえ、その結果手にした大金。人の為、下界の為の結果であっても、単なる物体である金に綺麗汚いなどありはしないと分かっていても、遣う気になれなかったのではなかろうか?
彼なりの抵抗を想うと、ジンは腹にずしりと重いものを感じた。
2人はそれなりに短いようで長く、凝縮された月日を共に過ごした。冗談で流した会話でも、明らかな嘘を見破れる位には心が通じているつもりだった。
飄々と、自由に生きているはずのリクに、何故か一抹の寂しさを消しきることが出来ない。それは大戦での経験と記憶が、彼に食い込んで抜けない棘となっているに違いなかった。
祈る。棘を消すことはできなくとも、痛みが和らぐことを。願わくば、親友が学園で、大戦に奪われた大切な時間を手にすることを。
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