第十五章

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「ともかく!!」 顔はまだ上気したままだが、ことさらに威厳を含ませた声で、チハヤが言った。 「行事予定によるとね」 「今吹き飛ばされたあれね」 「そう、紙なんて吹き飛ばされるためにあるのよ。 さておいて、今月は東領遊学があるの」 「遊学?」 リクには全く耳慣れない響きだった。 待ってましたとばかりに、チハヤはにんまりと笑った。想定内の質問がきたのだ。事前に学園長のマブチに聞いておいた、想定内の質問だ。 「遊学っていうのは、文字通り、遊びと学びよ。 土地の文化や人間に触れ、己の見聞や価値観の深化を図るの」 「丸暗記したような説明をありがとう。 旅程は?」 「二泊三日。あっという間ね」 「つまるところは、観光旅行か。いいねー、楽しみ」 「んー、まあ観光もあるけど、メインは違うわ」 そう言うと、どこからともなく取り出した紙を示す。 「東領の学園との交流。毎年の恒例らしいんだけど……」 「けど?」 「良い意味でも、悪い意味でも、優劣を争う間柄らしいわ。魔術に勉学、運動、部活に至るまで、相手に負けるのは許せはしない」 露骨にリクの表情が曇る。 「毎年毎年加熱してるの。去年の怪我人の数見た? 杞憂だろうけど、リクも気をつけてね」 怪訝な顔をした彼の目に、申し訳無さそうな笑みを浮かべたチハヤが映った。
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