20832人が本棚に入れています
本棚に追加
/670ページ
「残念だけど気をつけようがない」
そう言い切るリクは愉快そうだった。長めの前髪がさらさら揺れた。
「部活も勉学も、代表に選ばれない限りは出番がないんだろ?」
彼は結局部活に加入はしなかったし、前回の試験も追試扱いになっている以上、自分にお鉢が回ってくる可能性は極めて低いと判断していた。
チハヤにすれば苦笑せざるを得ない。
「よく見て」
彼女が指差した先には、はっきりと"術前披露"の文字。
術前とは文字通り、魔術の腕前。学園交流の行事として、確かに存在している。
「……うちにはハスノがいる」
「代表は2人よ」
「チハヤは?」
「あたしはここ。挨拶の係。花束交換の大役を果たすわ」
「俺?」
「術前披露はもってこいだと、満場一致で決まったわ。目立ち過ぎたのよ」
彼女は悪戯っぽく笑った。他人事ならばその表情に魅力を感じただろうが、今はそうではなかった。
「何をするの?何をするのが望ましいの?」
「例年で言えば、有らん限りの魔力でもって、奇跡を起こすことかしら」
「ハードル高いな、おい」
夜も更けた。彼は寝床に向かおうと、立ち上がった。
途端に背中に声が当たった。それは彼をひどく気落ちさせた。
「術前は盛り上がりの最高潮よ」
最初のコメントを投稿しよう!