それぞれの思いⅠ

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「…あたし、見たのよ。伸太郎が女とアパートに入っていくところ」 「…ああ、咲だろ」 なんとなく、展開はわかっていた。 いつものパターンだ。 いつも咲を浮気相手だと勘違いされる。 <浮気相手>だなんて俺にとってはかわいいものなのに。 「ずいぶん簡単に言うのね」 「簡単もなにも…」 一層責め立てる姿勢のマキに嫌気がさして溜息まじりに、独り言のようにぼそりと言った。 だが、あいつはそんなつぶやきも聞き逃さなかったらしい。 「じゃあなんなの?」 「…………」 答えられなかった。 どう言えば納得してまた笑うんだろう。 もういっそ、さっさと振ってくれた方がましだ。
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