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紗夜子は学校が終わると真っ直ぐ帰宅しピアノの前に座る。
中学三年生にもなれば世の女の子達は皆、放課後に友達と寄り道をしたり
恋愛のことやファッションのことなどを談笑したり
部活動に励んだりするものであろう。
しかし、紗夜子にはそんな友達もいないし
部活動をしているわけでもないし
ましてや恋などしたことがない。
小さい頃から学校が終われば何時間もピアノに向かう毎日が当たり前で特に疑問に思ったこともない。
紗夜子の通っている学校は所謂お嬢様学校で習い事をたくさんしているクラスメイトも多かったが
紗夜子ほど厳しく習い事に縛られているものはいなかった。
確かに…
世間でいうところの『普通』の日常があって、普通の楽しみがある…
紗夜子の日常は異質であることは本人にもよくわかっていた。
けれども
紗夜子はピアノを弾くことは苦にならなかったし
寧ろ
ピアノを弾いている時こそ心を落ち着かせることが出来た。
そんな日常。
しかしいつからか
よくわからない感情が…闇が…
心の中を占めるようになってきた。
鬱屈とでも言うべきか。
―私にはピアノしかない。
私からピアノを取ったら何が残るというのかー
そんな時こそ紗夜子はひたすらピアノに向かった。
ピアノに向かえば向かうほど感じる虚しさ。
それでもピアノを弾き続ける矛盾。
紗夜子にはピアノを弾き続けることしかできなかった。
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