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紗夜子がいつも通り帰宅すると
屋敷内からピアノの音が聞こえてきた。
ベートーベンの月光だ。
母だろうか。
紗夜子の母親もピアノを弾く。
若い頃はピアニストを目指していたが
腕を傷めたためにやめてしまった。
そのために紗夜子により強い期待を持っているのだ。
紗夜子はピアノの音色のする方に少し近付き耳を凝らしてみる。
弾いているのは…
母ではない。
小さい頃からピアノを習っていた紗夜子は普通の人よりは耳がよく、聴いたことのある人物の音色ならば
誰が弾いているかぐらいはなんとなく聞き分けることが出来た。
この音色は…
聞いたことがない。
新しい教師が来たのだろうか。
母がコンクールの為にとより良い教師を連れてくることは今までにもあった。
しかも
ピアノ自体の音色も紗夜子がいつも弾いているピアノとは違うようだ。
ピアノの音色が聞こえてきたのは普段紗夜子が殆ど入ったことのない部屋…
この屋敷内だけで20部屋以上あるのだから
あまり入ったことのない部屋もある。
音色が止まった。
恐る恐る扉を開けてみる…
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