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「紗夜子さん、帰っていたのね。ピアノを弾いていたの?」
「え…?
いえ、私は…」
「このピアノはあなたのものよ。」
「………?」
「これは私が昔使っていたものなの。あなたにプレゼントしようと思ってこの部屋に運んでもらったのよ。
コンクールも近いから、このピアノで練習するといいわ。」
にっこりと微笑む母。
「…ありがとうございます。」
「……………」
考え込む紗夜子に母が声をかける。
「紗夜子さん?
どうかしたの?」
「いえ、お母様…あの…」
「なぁに?」
「新しい先生がいらっしゃったのですか?」
紗夜子が慎重に尋ねる。
「えぇ、そう…そうね、もうすぐいらっしゃる頃だわ。
よくわかったわね。」
母はハッとしたように答えた。
―…もうすぐ、
来る頃…?―
教師はまだ来ていない。
じゃああの音色は一体誰が…?
「それじゃあ、先生がそろそろお見えになる頃だから私はお茶の用意をするわ。
あなたは先生がいらっしゃるまでこの部屋で待っていてね。」
そう言って母は部屋を出ていった。
結局
紗夜子はピアノを弾いていたのは自分ではないと言いそびれてしまったし
音色の主が誰なのかもわからないままだった。
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