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蒔野のレッスンは至って順調に、淡々と続いていた。
やはり。
特に悪いところなんか無いし
苦手なんて思ったのは酷かったかな…。
ついそんな感情がよぎる。
いけない。
曲に集中しなくては。
蒔野は紗夜子の心の動きまで感じ取ったわけではないだろうが、すかさず指導が入る。
あまり動揺したりする事のない紗夜子でもたまには感情が表れることがあるのだ。
紗夜子は自分がより効果的に曲を表現するためには決して自分の感情を曲に表してはいけないと考えていた。
まずは譜面に忠実であるべきである。
作者の表現したかったものを忠実に再現する。
そこから、技術や音感で曲に表情をつける。
自分の感情を曲に籠めるなんて、厚かましすぎる…。
集中力を取り戻した紗夜子の力量は目を見張るものがあった。
蒔野もしきりに褒めている。
本当に褒めるだけでいいのだろうか、
紗夜子自身も少々不安になる程に。
初回のレッスンは無事終了した。
レッスン後にふと、紗夜子は思いついて蒔野にこんなことを頼んでいた。
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