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「エレーヌ!」
ジュリアスは瞳を輝かせます。
エドゥアールは微苦笑を浮かべながら、小さく首を振りました。
「エレーヌ…?」
「…私の名はエドゥアール。エレーヌではありません。…エレーヌは昨年亡くなりました」
エドゥアールが告げると、ジュリアスは糸が切れた人形のようにその場に力無く座り込み、自分の顔を片手で覆いました。
「そう…だったな…」
くぐもった声で呟きます。
「…大丈夫、ですか?」
エドゥアールはそっとジュリアスの肩に手を置き、声を掛けました。
従者は渋い顔をしていましたが、悲しみに包まれた人を放ってはおけません。
ジュリアスは顔から手を離し、顔を上げました。
「…エレーヌ……」
「エドゥアールです」
揺れる瞳で見つめ、肩に置かれた手を掴んで妻の名を口にするジュリアスに、エドゥアールは苦笑するしかありませんでした。
ジュリアスは寂しそうに呟きます。
「……似ているどころか、エレーヌしか見えん。お前は何者だ?」
「私はエドゥアール。エレーヌの双子の弟です」
「! 肖像画の片割れか」
ジュリアスは一瞬大きく目を見開き、次には納得したように手を打ちました。
エドゥアールも驚きに目をしばたかせます。
「…いつご覧に?」
「エレーヌを口説きに行った日だ。けんもほろろに振られた俺を不憫に思われたのか、セリシン王に見せていただいた」
「…そうでしたか」
ジュリアスのその返答に、エドゥアールは苦笑を深めました。
その後ろでは、玉座の王が文字通り頭を抱えています。
「…何故、今頃参られた?」
「エレーヌの墓前に…といえばよろしいですか?」
「…言葉を間違えたな。何故、急に王子として現れたのかと、聞きたかったのだ。あの時、セリシン王からは亡くなったと聞いたはずだが?」
「…そうですね。あの頃は確かにいつ死んでもおかしくない状態でしたから」
「……」
「昼も夜も、私は常に死神の腕の中にいました。けれど死神もエレーヌと私を間違えたのか、エレーヌといる時だけは解放されていました。…夏になると、避暑という名目でエレーヌは毎年会いに来てくれていました」
「……」
「…一昨年のことです。いつものようにエレーヌが来てくれましたが、どこか違って見えました。聞かなくてもわかります…片割れですから」
エドゥアールの言葉を、ジュリアスは黙って聞いていました。
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