96人が本棚に入れています
本棚に追加
挨拶は済んでいるのだから、もう用はないとでも言っているようです。
王とジュリアスが無言の対峙をしている間に王妃が立ち上がり、エドゥアールの前に歩を進めました。
「エドゥアール、と呼んでも?」
「はい、王妃さま」
「……」
王妃もまた、エドゥアールの中にかつて娘と呼んだエレーヌの面影を探していました。
「…本当に、よく似ていますね」
「恐れ入ります」
「…抱きしめても?」
「王妃さまがよろしければ」
エドゥアールは王妃の申し出を快諾します。
王妃は壊れ物を抱きしめるように、そっと腕を回しました。
「エレーヌを愛してくださって、ありがとうございます」
「……」
王妃は腕を解くと、エドゥアールを見上げました。
「…何故そう思うのです?」
「私を…正確には私の中に捜していらしたエレーヌを見つめる眼差しが温かく優しいものでしたので」
「ええ、そうね…。私の新しい娘は、この国のすべての者に愛されていましたよ。…セリシン王妃はお元気でいらっしゃる?」
「はい、お陰さまで」
答えるエドゥアールをもう一度抱きしめて、王妃はジュリアスに向き直りました。
「ジュリアス。案内をするのは構いませんが、まずはその支度をどうにかなさい」
「もちろんそのつもりです。俺が着替えている間は婆やと話をしてもらうつもりです。きっと婆やも喜ぶでしょう」
「そうですね。それが良いでしょう」
「王妃!?」
「…何か?」
勝手に話を進める二人に王は慌てましたが、王妃の冷たい視線に口を閉ざしました。
「…エドゥアールよ。ここを自国と思いゆるりと過ごされよ」
「お心遣い感謝いたします」
エドゥアールは王の言葉に深々と頭を下げました。
そして従者を伴い、ジュリアスの先導について行きます。
「そちらの従者殿のお名前は?」
「…ルドルフと申します」
「……」
エドゥアールが答え、半歩後ろを歩く従者は軽く頭を下げました。
「セリシンに何度か通ったが、初めて会うな。元々エドゥアールの従者なのか?」
「いえ、今回のことがあったからです。従者というか保護者というか…、まぁ世話をかけています」
エドゥアールが苦笑しながら答えます。
ルドルフが何も言わないところをみると、世話をかけているのは事実のようです。
最初のコメントを投稿しよう!