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濡れた瞳の奥に揺るがぬ意思の強さが見え、ジュリアスは切なくなりました。
「エレーヌとは別人と思えなどと…、お前は本当につれないな…。お前はすでに切り替えたのかもしれないが、こうしてお前を前にすると、固めたはずの決意が揺らいでしまう」
つらそうに眉を寄せ、ジュリアスは滑らかなエドゥアールの頬を撫で下ろします。
ジュリアスの言葉に同情はしても、賛同することはできません。
エドゥアール自身にしても、完全に切り替えられたのかどうか分かりませんでした。
だからといって、過去の思いにばかり囚われているわけにもいきません。
そのために新たな一歩を踏み出したのです。
「…ジュリアス」
「…分かっている。分かっているが、少しだけ…思い出に浸ってはいけないか?」
「いけません」
エドゥアールは間髪を入れずに答えます。
「そんなことをしていては、きりがないではありませんか」
「…厳しいな」
「…私たちはこれからも隣人として、付き合っていくのではなかったのですか?」
「……」
「友人を得ると言ってくれたのは、他でもない貴方ではありませんか…」
「…そうだな」
ジュリアスは大きく息をつき、エドゥアールの上から退きました。
手を貸し、エドゥアールの体を引き上げます。
本当はそのまま抱きしめたいところでしたが、ジュリアスは己の感情をぐっと押さえ込み、寝台を下りました。
「…ジュリアス。何故再婚なさらないのですか?」
「本当に容赦がないな」
「…?」
ジュリアスの言葉にエドゥアールは小首を傾げます。
無意識の仕草でしたが、若干の色眼鏡で見てしまうジュリアスにとっては、愛らしい生き物にしか映りません。
「……」
ジュリアスは、はぁ…、と大袈裟なくらいの大きな息をつきました。
「ジュリアス?」
「お前のことが忘れられないからだろう!」
「!!」
思いも寄らない告白に、エドゥアールは大きく目を見開きました。
そして、忙しなく瞬きを繰り返します。
「よくお義母さまが許しましたね…」
多少の驚きを持って、エドゥアールは言いました。
エレーヌの死去直後にもかかわらず、次の段取り等をジュリアスに強要していたのを聞いていたので、直ぐにでも次の妃が選ばれるものと思っていたのです。
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