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「……」
ルドルフは厳しい表情のまま、ジュリアスをじっと見つめています。
「…気に入らないか?」
「いえ…」
揶揄するようなジュリアスに、ルドルフは表情を変えずに答えました。
「皆さま、お茶のご用意ができましたよ」
寝室の外から、婆やが声をかけます。
「ルドルフ」
背中に手が添えられ、ルドルフはエドゥアールを振り返りました。
穏やかな笑みが向けられています。
「早く行かないと、婆やに叱られる。…ジュリアスも」
「ああ、着替えて直ぐに行く」
「…お待ちしています」
エドゥアールは軽く頭を下げ、ルドルフを伴って退出します。
その背中に、ジュリアスが声をかけました。
「エレーヌ……ではなく、エドゥアール」
「はい」
「何に着替えれば良いと思うか?」
問われたエドゥアールは小首を傾げます。
「…式典に出るわけではないでしょうから、普段着で良いのでは?」
「そうか────訓練所も案内するか?」
「是非。貴方もルドルフの技量をみたいでしょうし、私も貴方にお相手願いたいと思っています」
きらりと強い意思が瞳に映っています。
「そうだな、一度手合わせするのも悪くないな」
ジュリアスも笑顔で応じました。
お待ちしています、とエドゥアールはもう一度繰り返し、寝室を後にしました。
ジュリアスが着替えて次の間に向かうと、エドゥアールたちは先にお茶を飲んでいました。
婆やと笑顔で語らう姿は、以前にはよく見た光景です。
「ジュリアス」
エドゥアールがジュリアスに気付き、笑みを深める姿は、ますます愛しい妻としての姿に重なり、ジュリアスの心中も複雑でした。
けれどもこの一年、傷心で通した経緯もあり、多少エドゥアールにエレーヌを重ねて見たとしても責められることはないだろうと、ジュリアスは開き直りました。
しかし逆に将来を危惧し、再婚話も浮上するかもしれません。
それならそれで、エドゥアールを直接見せることで相手の戦意を喪失させるのも良い手だとジュリアスは密かに考えるのでした。
エドゥアールが知ったら怒られそうだ、とどこか楽しそうに心の中で呟きます。
けれどもそんなことは?にも出さず、ジュリアスは何食わぬ顔でエドゥアールの隣に腰を下ろし、婆やのお茶に舌鼓を打ちました。
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