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「…言いたい奴には言わせておけばいい」
「そういうわけには参りません。…正式には発表していませんが、婚約者がおります。────貴方の再婚が決まった後で発表することになっているのです」
「…婚約者……」
ジュリアスは力なく呟きました。
その可能性を考えなかったわけではありません。しかし、まだ遠い先の話だと思っていました。
「…名は?」
「お教えできません。口説かれては困りますから」
硬い表情のジュリアスに、エドゥアールはにっこりと微笑みました。
「……」
「……」
ジュリアスは真偽を見定めようとじっと相手を見つめ、エドゥアールは笑みを浮かべることで答えとしています。
「…まぁ、いい。婚約者殿には申し訳ないが、今暫くは俺に付き合ってもらおう」
無言の攻防の末、ジュリアスはそう言って再び歩き出しました。
すっ、とエドゥアールの隣にルドルフが並びます。
「…婚約者の話は初耳だが?」
「私も聞いたことがないよ…」
耳打ちにエドゥアールは疲れたように答えました。
その言葉に片眉を上げるルドルフに、苦笑交じりに続けます。
「客観的に見て、あの人の私に対する執着は度を超している。これを機にと思ったのだが…」
「失敗だったようだな」
「……」
肩を落とす主の背中に、ルドルフは手を添えました。
「…暫くは我慢するのだな。押し倒されそうになったら助けてやる」
「その前に助けてほしい…」
「そこは自分で対処しろ。いつまでも誰かに助けてもらっているようでは、俺も困る」
「…善処する」
「あまり気負うな。悪いことばかりではなかったのだろう?」
「…心苦しいくらい良くしてもらったよ。でも、私が今ほしいのは友人だ…」
「……」
ルドルフはエドゥアールの頭をくしゃりと撫で、人との関わりが乏しく不慣れな弟分を、優しく見つめます。
「…ルドルフ?」
「お互い、少しずつ適切な距離を見定めればいい」
「…うん」
「それまでは俺も助けよう」
「うん…」
少しだけ、エドゥアールの表情が和らぎました。
「────エドゥアール」
「はい」
先を行くジュリアスに呼ばれ、エドゥアールは笑顔で答えて駆け出しました。
新しい関係は始まったばかりです。
並ぶ二人を見守るように見つめ、ルドルフも歩を進めました。
END.
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