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吹き渡る初夏の風を背に感じ、私は箒を動かす手を止めた。
頭上より遙か高くに覆い繁る大木の葉が、燦々と照りつける太陽の光を遮り、心地よいあたたかな木漏れ日を作る。
あれから一年の時がたった。
私は沖田さんの言われたとおりあの家を離れた。
ここは多摩。
多摩には近藤さんや食客だった皆が共に剣術を学んだ試衛館道場があり、私はそこの手伝いをしながら、彼の姉である沖田ミツさんの元でお世話になっている。
ミツさんは小さな荷物一つ、突然現れた虚ろ目な私の姿を見てすぐに駆けつけてきてくれた。
下を俯いたまままともに言葉を発さない私のことを、何も聞かずただ抱きしめてくれた。
その抱きしめてくれた腕が、あの人が抱きしめてくれた腕の暖かさと似ていたのは、やはり姉弟だからか。
なんてことを思ったら、また少しだけ泣けてきて、私は自然とミツさんの袖を強く握りしめていた。
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