2・予兆

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 ヴ・ゥ・ヴヴゥゥゥン  ふいに、重低音をともなった羽音が響きわたる。  三つの複眼に、胴体から伸びる六枚の薄羽。  貴族!  飛蝗<リーン>だ。  リーンの体を赤い微光が覆っている。  ファナは体が硬直するのを感じた。  恐怖に首筋のうぶ毛が逆立つ。  まずい。どうしてこんなところに…。紅…紅リーンだ!  貴族のなかでも女王に次ぐ権力をもつ紅の姫君!  ヴォォオン!  刹那、稲妻にも似た貴族の強制言語が、リラの額にあるアビラを貫いた。  白目をむき痙攣をやめ、ぐったりと腕の中で倒れこむリラ。  だがファナの瞳はリラを見つめることなく、前方の空中に浮かぶ巨大な生物に据えられていた。  まだ飛蝗の強制言語の余韻で大気が震えている。  ファナが後方へ後ずさりしようとした瞬間、刃のようなリーンの強制言語がファナに向かって放たれた。  絶対的な強制言語がファナのアビラを貫く。  *** サ・ガ・レ! ***  ** 翼 モツ 娘 ヨ ***  *** 竜 ノ 巫女 ヲ ***  ** ワラワ ニ ササゲヨ! ***  ファナは体が自分の意思とは無関係に動き出すのを感じた。  ふるえる翼指がリラを地面に置き、手足が勝手に後方へと下がっていく。  膝をつき、頭を地面にすりつける。 「…お、お待ちください…」
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