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ミトラの前に設けられた広場では、部族の者たちが赤々とたかれた焚き火の周囲で楽しげに輪になって踊っている。
「何をしんみり踊っている!葬礼かと思ったぞ!もう宴は終わったのか!?翼を持つ者がやってきたぞ!」
ファナの口上に歓声があがった。
リズムを刻んでいる村人に目配せすると、笑いながら打楽器を叩いている手のスピードをあげてくれた。
踊りの調べが速く激しいものに変わる。
そうだ!いいぞ!
ファナが心の中で叫ぶ。
祭りはこうでなくちゃいけない!
体が激しいリズムの波に乗っていく。
隣ではパナとビィも遅れまいと笑いながら踊っていた。
周囲の村人たちもビートの熱に浮かされるように激しいリズムを体で刻みはじめた。
祭りはいい。
毎日の生活では翼が皆との間を隔ててしまうけど、祭りになれば翼が皆を喜ばせる道具になる。
心臓の鼓動が高まり、体中から気持ちのいい汗が流れる。
ひときわ高い歓声があがったので隣をみると、ミシュラが踊り始めたところだった。ミシュラはオーブ一番の踊りてだ。トーラの祭典でも主役を務めている。
誰もが認めるようにミシュラは美しかった。すらりと伸びた手足にひきしまった体、そしてなにより神が作り出したとしか思えない均整のとれた顔。もっとも男どもはミシュラの重く揺れる胸にばかり目を奪われているようだが。
「ファナ、いくよ」
ミシュラが寄ってきて、二人で踊り始めることになった。
周囲の皆と合わせていたステップがさらに激しいものに変わる。
複雑ではあるが洗練されたミシュラの踊り。いつものことながらミシュラの美しさと踊りの才能には驚かされる。
子供の頃からミシュラには可愛がってもらってきた。翼をみると距離をおく村人に対して、ミシュラは逆に近寄ってきて踊りを教えてくれた。
『翼を使って新しい踊りを考えてみたんだけど』
そう言ってはいつも遊んでくれたものだ。
ミシュラの教えてくれた踊りには感謝している。踊りは村人との間に新しい絆をもたらしてくれた。
「ほら足元!」
テンポの遅れた足の動きをミシュラから指摘され慌てて修正する。
即座に反応するとミシュラが嬉しそうに笑った。
炎の揺らめく光がミシュラの肌から流れる汗に反射して宝石のように輝いている。
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