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楽しい時間を過ごしていると、何人かの男がミシュラに寄ってきた。
ミシュラの恋人志願者たちだ。
逞しい体を誇示する男の踊りでミシュラを誘っている。
ミシュラは小声で「またね」と言うと、男たちを引き連れて離れていった。
まるでリーンの女王様みたいだと思い笑いがこみあげる。
視線を周囲に向けると、踊りの輪の外側では老人や子供たちが食事を楽しんでいた。
いつの間にかパナとビィは母親のリカムの所で料理を食べ始めていた。
味付けされ、湯気をたてている肉にかぶりついている二人を見てファナの胃がグゥと鳴いた。
胃袋の助言に従い、料理番でもあるリカムのところへ足をむける。
「ファナ良かったぞ!」
まわりの村人たちから賛辞の声をかけられた。
笑みを浮かべ、翼をふって歓声にこたえる。
「おやまぁ、痩せた小鳥がやってきたね」
そう言ってリカムが太った体をゆすって笑い出す。
いつも笑っているリカムだが今日はさらに上機嫌だ。何しろ自慢の息子であるバハが白き砂鮫を捕ってきたのだから当然だろう。
「さぁ、食べな!リカム特製の料理ばかりだよ」
そう言うと木皿に甘辛く煮込んだ肉料理と主食のトパを入れて渡してくれた。
「それと…これは内緒だよ」
そう言ってリーンの花蜜酒をそっと渡してくれた。リーンの女王候補の幼生を育てる蜜から作られる貴重な酒だ。
「うゎ!どうしたの?」
「おまえの友達、片羽のミューから蜜をたくさんもらったのさ。ファナがいつもよくしてくれるからおすそ分けだってよ!」
「ありがと!それじゃ遠慮なくいただくね!」
リカムはうなずくと、他の者たちへ料理を運び始めた。
隣のパナとビィは口に料理を運びつつ、二人して居眠りを始めている。口元からこぼれたトパがぽろぽろと落ちている。
ファナは笑って二人の横に腰をおろすと、花蜜酒の入った木椀を鼻によせた。
甘い花の香りがする。そっと口に含むと酒精の熱とともになめらかな液体が胃の中へスルスルと落ちていく。
「うまい!」
思わず声に出してしまい周りを見回す。祭りでは黙認されているが、部族の掟では女性が酒を飲むのは禁じられているのだ。
『ま、私は翼を持つものだから女には入らないけどね』
そう心の中でつぶやきながら二口目をあおる。
「さて、食事にとりかかりますか!」
胃の要求どおりにファナは料理をすごい勢いで食べ始めた。
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