10人が本棚に入れています
本棚に追加
リカムの料理の腕はいつも皆を驚かせる。本人にうまい料理の秘密を聞いたことがあるが、『手間を惜しまなければおいしいのよ』と言って笑うばかりだった。
香ばしく表面を焼き上げられた肉詰めをたいらげ、次はどの料理を食べようかと思案していると目の前にユマが現れた。
「ファナ踊りよかったよ。果物も食べる?」
ユマが皿にもられた果実をさしだす。どうやらリカムの手伝いをしつつ、給仕をしているようだ。
ミシュラが男たちの理想の恋人像なら、ユマは理想の奥さん候補だという話をよく男たちがしていた。ユマは内気だが、よく気がきいて世話好きだ。
「うん。いただくね」
そう言って果物をとるとユマが優しげにうなずいた。
ユマは最初にできた友達だ。生れ落ち、翼を持つ者であった私は族長グルスの家で育てられることになった。そこでグルスの子供であるユマとは親しくなった。
ユマの視線が私からはずれて、ある男に注がれているのに気づいた。
戦士たちの集団にユマの視線は吸いこまれていた。探さなくても誰だか分かる。視線の先は英雄バハただ一人だ。
「祭りのあとバハを『茂み』に誘ってみたら?」
そう言うとユマが顔を赤くした。
「ファナったら何言ってるの!」
ユマが背を向けて走り出す。
可愛いなと思いつつ、ユマが持ってきてくれたラサの果実を口にいれる。さわやかな酸味と甘味が口中に広がった。
ふと思いつき、ラサの果実を軽くしぼりつつ花蜜酒に入れてみた。
口に含むと、甘い酒に酸味がほどよく混ざりあい絶妙な風味をもたらしている。これがリカムの言う『手間』なのだと思った。思いつきに感謝しながら踊りの輪へと目線を向ける。
宴も終盤にさしかかり、踊っているのは年頃の若い女と若い男だけになっている。
互いの手をとり楽しげに踊っている。
この時、結婚前の女か寡婦が承諾すれば祭りから抜け出しラサの茂みで愛を確かめ合うことになる。
だが抜け出すものはいないはずだ。これから白き砂鮫をとらえたバハへの祝賀が始まるからだ。
最初のコメントを投稿しよう!