3・戦士の誓い

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 ゴォオォォーン!  銅鑼の音が響き渡る。  踊っていた者たちは散らばり、巨大なかがり火の周囲を空けた。  続いて二度目の銅鑼が鳴ると、屈強な体を持つ戦士たちが一列になり入場し炎を取り囲んだ。  三度目の銅鑼が鳴る。  戦士たちの勇壮な舞踊が始まった。戦士たちが闘いの歌を力強い声音で歌い始める。  すべての人々が戦士たちに声援を送っていた。いとしき恋人、家族の誇り、自慢の孫、それぞれの思いを胸に炎を背に踊る戦士に声をかけ続けている。  戦士は選ばれた者たちだ。  子供の頃に審査を受け、認められた者だけが戦士の一団<ゼリベ>に入ることができる。ゼリベでは甲牛<ヌース>の放牧や狩猟、そして過酷な鍛錬が入団した子供たちを待ち受けている。だが、それでも男の子供たちはゼリベに入ることを願う。オーブの戦士になることは男の子の夢なのだ。  「神<ヒューム>の御使いだ!」  どこかで若い娘の声が響くと、周囲から高い歓声が沸きあがった。  興奮した人々のアビラが解放され共鳴している。  切り取られた白き砂鮫<ピラ>の頭部が見えた。  木で組んだ台座に乗せられたヒュームの使徒の頭部は天を睨み咆哮しているようにみえた。 使徒の赤い瞳が炎の揺らめきを反射させて光っている。 「バハだ!オーブの英雄バハ!」  ファナの近くにいた少年が叫んだ。尊敬と羨望のまなざしでバハを見つめている。  使徒が乗った台座の後ろにバハがいた。  削りだした巌のような筋肉を身にまとった背の高い男だ。  少しはにかんだ笑みを精悍な顔に浮かべ、両手を広げて勝者の舞いを踊っている。飛蝗<リーン>の黒戦士を模したと伝えられる舞いだ。狩りにおいて一番巨大なピラをしとめた者のみが踊ることを許されている。  熱狂する観衆がバハの名を連呼し始めた。  するとバハの背後いた巨漢タリムがいきなりバハを肩に担いだ。興がのったタリムは奇声を発している。顔は満面の笑みだ。  戦友の肩車にバハは破顔した。  バハの幼さの残る笑顔を見て、ファナは胸の奥底に鈍い痛みが走るのを感じた。
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