10人が本棚に入れています
本棚に追加
ファナの目の前にバハがやってきた。
バハを担いでいたタリムと視線が合うと、タリムは無骨な顔に笑みを浮かべ片目をファナにつぶってみせた。
いやな予感がファナの胸中に満ちた。
バハとタリムの後ろに控えていた戦士が頭に器をのせてバハに近づいてきた。
気づいた群集から期待に膨らんだどよめきが起こる。
白き砂鮫<ピラ>の牙をこれから撒くのだ。拾った者には幸運がまいこむとされている。
大きな手で何本もの牙をつかむと、バハは群衆に向かって散らばるように投げた。
大きな弧を描き上方に向かった牙に村人が視線を奪われた瞬間、バハがファナに向かって一個の牙を投げつけた。
ファナが真っ直ぐに飛んできた牙を右の翼指で受け止める。
牙には十字の模様が彫りこまれていた。二人だけで取り決めた秘密の合図だ。
ファナはバハを睨みつけたが、バハは視線を合わせようとしなかった。ファナは暗然とした思いにかられた。
タリムに肩車されたままのバハ、そして戦士の一団が通り過ぎても群集はバハの名を連呼し続けた。
一人一人のアビラからも興奮が発せられ、共鳴したアビラの波動はまるで広場中央の巨大な炎にも似た熱気を帯びていた。
握った拳の中、ピラの牙が未来に待ち受ける痛みを教えてくれた。
最初のコメントを投稿しよう!