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荒れ狂うピラの急所を的確に見抜く瞳が真っ直ぐにこちらを見ている。
ファナの不安は確信に変わった。
「これは戦士の誓いだ!翼を持つ者、ファナを我が妻に迎え入れる!」
バハの大音声に歓声は起こらなかった。
一瞬の静寂のあと、戸惑いを含んだざわめきが沸き起こる。
ファナは周囲にいた者たちがささやきながら下がっていくのを感じた。
激しく対立する感情が胸の中でうずまいている。ファナは息苦しさに眩暈を覚えた。
「待て!」
族長グルスが立ち上がる。遠目にも逡巡している様子が見て取れた。グルスが娘のユマをバハに嫁がせようとバハの両親と交渉していたことは周知の事実だ。
「掟には……掟には反せぬがファナは翼持てし者。通常の婚姻とは違う。これは評議にかけることにする!今宵はここまでだ!」
グルスは不機嫌そうに宣言すると去っていった。
場内は未だにどよめいている。
バハはファナに視線を合わせたまま動こうとしない。
つながった視線を最初に振り切ったのはファナだった。好奇の視線に耐えられなくなったファナがバハの視線に背を向けて駆け出そうとする。
その時、ファナはこの場で一番見たくないものを見つけた。
ユマだ。
やや目を見開いた無表情な顔。
何か声をかけなければと思った刹那、ユマのアビラから針のような感情がほとばしった。無意識に発してしまったのだろう。次の瞬間、自分でも驚いた表情を浮かべたユマは額のアビラを右手で隠した。
一瞬の逡巡のあと、ユマはファナに背を向けると走り去っていった。
ユマのアビラから放たれたもの、それは純粋な殺意だった。
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