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天蓋に燦然とちりばめられた星々。
時折、流星が美しい軌跡を描いて天空を横切ってゆく。
ファナは一人、バハがやってくるのを待っていた。
背をラサの老木、<デュマ>に預けて両足はだらしなく前に投げ出した格好だ。前にある小さな焚き火に時折薪をなげこんでいる。
「今日に限って、二度もデュマまでくることになるとは思わなかったな」
苦笑いが自然と口元に浮かぶ。
「バハのやつ遅すぎる」
口では言ったものの、バハが遅れるのは分かっていた。
今ごろリカムからこっぴどく怒られているはずだ。
それでもバハが『戦士の誓い』を覆すことはない。
やがてリカムは泣きつくが諦めてしまうだろう。何故ならバハは『戦士の誓い』を宣言したのだ。『戦士の誓い』を破ることは恥とされている。ゼリベからの追放……いや自分から出て行かざるをえなくなる。
つまりは戦士の名誉にかけて娶るのだというバハの決意だ。
そこまでの決意を見せれば求婚に応じるとでも思ったのだろうか?
バハには分からないのだろうか。
今夜の出来事で村人との間につながれていた細い絆はなくなってしまった。
それにユマのこともある。
もう以前の友情は崩れ去ってしまっただろう。
物思いに沈んでいると、砂漠を蹴る足音がした。
ミトラの方角から砂漠を走るバハが見えた。
ピラでも仕留めそうな勢いだ。
これから……私は怒りにまかせてバハを殴ってしまうのだろう。
二・三度はこの両手に生える醜い鉤爪でその厚い胸板を引き裂いてしまうかもしれない。
だが最後には……。
「ファナ?」
荒い呼吸をしつつ、バハがこちらの顔を見て不安そうに声をかけた。
いつの間にか流れていた涙をぬぐう。
だが最後にはバハに抱かれてしまうのだろう。
そのことが私の喜びであり痛みなのだ。
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