1・翼を持つ者

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1・翼を持つ者

 カゼ。  カゼ・ノ・コエ。  風・ノ・声・ダ。  心の中でくりかえす呪文。  今日はアビラが風の声をよくとらえてくれる…。  ファナは紺碧に染まった大空を飛んでいた。  広げた両翼は風をはらみ、身体をはるかな空の高みへとおしあげていく。  空は青く澄みわたり、雲の影は見えない。  背中にふりそそぐ陽光と頬をすりにけていく風の心地好さに、思わずファナの口元に笑みがこぼれた。つられて、まだあどけない唇の隙間から二本の小さな牙がのぞく。  亜麻色の髪の毛がファナの褐色でなめらかな頬をたたいた。ファナのつややかな髪からは、先端の尖った小さな耳がつきだしている。  邪魔だな。  ファナは声をださずに胸の内でつぶやいた。  髪がなければもっと風を感じることができるのに。  首をふり、まとわりついた髪をはねあげながら空をみる。  巨大な蒼穹の広がりが視界を覆っていた。  私は、飛んでいる。  そうくり返し思うたび、わきあがる興奮にファナの身体は震えた。  大空はファナの希望の印だった。  どこまでも続く青い天空は、世界の理を生みだした神々の姿だ。  地上に広がる赤い砂漠は地平線の彼方まで続いていた。  風紋の続く砂漠に動いている物の気配はなく、ただ、ファナの小さな影のみが地表をかろやかに追いかけてくる。  二度ほど、翼をゆっくりと羽ばたかせた。  飛行膜が風を受けて膨らむ。  遠くへ行こう。  まだ見たことのない場所へ…。  ファナは風の吹いてくる方向に体を傾けると、力強く翼をはためかせた。  心地好い熱風はファナを助け、彼女の行く手をはばむものは何もなかった。
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