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「話がある」
唐突に言われ、じっと次の言葉を待っていた。
しばらくして彼は見知らぬ女を連れて来てこう切り出した。
「この人と結婚したいんだ……」
何を言っているのかさっぱり意味がわからなかった。
言葉の意味を辿る私をよそに彼はさらに続けた。
「彼女がいると自分らしく居られるんだ」
(…そうか、別れたいのか)
やっと理解できた。
でもそれって私の前ではずっとがまんしていて、彼女の前では自分を出せたということ。
その事実が嫉妬よりもとてもつらくのしかかった。
「お願いできるかな」
渡されたのは離婚届……
泣きわめいてすがる選択肢もあった。
しかし彼の決心は堅いに違いなかった。
冗談でこんなことを言うヒトではない。
そんなことは誰よりもわかっていた。
「……わかりました」
それを言うのが精一杯で、泣かないように堪えるだけで必死だった。
泣くことだけは小さなプライドが許さなかった。
とにかくその場を一秒でも早く立ち去りたかった。
『PPPPPP…』
携帯のアラームがなった。
余韻が残ってて涙が頬を伝った。
安堵が胸いっぱいに広がっていくのを感じた。
(あぁ、夢かぁ……)
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