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緩やかな丘の斜面の中の、多少は傾斜がきつくなっているところに、一人の若い男が座って本を読んでいた。その他にも、あちらこちらに本を読んでいる人がいる。僕がその男をじっと眺めていると、それに気づいた男が顔を上げた。
「私に何か用かな?」
「邪魔してしまってすみません。何をしているのかと思って。」
「何をしているかって、見てわからないかね?読書をしているのだよ。読書の秋だからね。」
「読書のアキ、ですか。」
「そう、秋は初めてかね?ここの涼しい気候は、静かに読書をするには丁度よいのだよ。君もどうかな?」
「いえ、僕は旅の途中ですので…遠慮しておきます。」
「ふむ、それは残念だな。」
僕は男と別れて、また歩き始めた。斜面を下りきるまでに、読書をしている者は何人か見たが、向こうから話しかけてくることはなかった。
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