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男は千佳子を抱きかかえて病院を出た。この病院の裏の小さな中庭があり その真ん中にはポツンと大きな木が生えている。
男はその木の木の陰に千佳子を座らせた。千佳子はまだ気を失っていたのでグタっと地べたに倒れてしまった。
「まぁ…アレをすぐ見たら誰でも混乱ぐらいはするけどなぁ…。仕方ねぇな ったく…」
男は後頭部をかりかりかきながら立ち上がり 千佳子をそのまま置いてまた病院の中に入っていった。
――――さぁぁっ…‥
少し強い風が千佳子に向かって静かに吹く。千佳子が寝ている木陰をつくる木が優しく揺れる。
その時 その木から1枚だけ若葉が千佳子の上に落ちてきた。
若葉はひらひらと少し風に押し上げられながら落ちてゆく。
そしてちょうど千佳子の顔に落ちそうになった――…
――が
若葉はそのまま千佳子の顔を通り過ぎ地面に落ちた。
落ちたばかりの地面の上の葉っぱがさびしげに揺れている。
ふと千佳子は意識を取り戻しゆっくりと体を起こした。
体の痛みもふるえも止まっていた。
落ち着いている。
混乱もしてない。
頭の中は
さっきの映像で
いっぱいで
何も
考えられなくなっていたんだ。
ただその場に座って
たった今落ちてきた若葉を見つめる。
ふと
空っぽの心に浮かんだ
言葉は…
ー―――現実……?―――ー
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