『板垣の場合』

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弱小野球部とはいえ、板垣は一年生から一番セカンドのレギュラーを獲得した。 明らかに他の八人とは違う選手。 二年生の冬。とある野球名門高校スカウトから板垣に誘いの話が来た。 「俺が?」 「君の高いセンスを評価しているんだ。どうだい? 来年我が校に来る気はあるかな?」 弱小野球部から名門への誘い。 ビッグチャンスだ。 それに対し、板垣は即答で、 「いや、興味無いんで」 断った。 板垣は野球が好きだ。 が、野球だけをやる気は全く無かった。 向上心が無かった訳ではない。 上手くなりたいとチームの誰よりも願っていた。しかし、それは“野球”だけに限った話ではない。 進路を決定する最終学年の三年。板垣は迷わずに進路を決めた。 地元一の進学校、滑川学園に。 あれだけ練習をしていて勉強する時間があったのか。 そう誰もが思うほど板垣の成績――学力は高かった。 進学塾に通い詰めていた秀才たちよりも、授業を受けているだけの板垣の方が成績が高い。 友人が彼に勉強のコツを聞くと、 「だって、基礎が分かれば解けるじゃん?」 だそうだ。 素直というか、正直な性格が、根底にあることを周りが知るのは、まだ先だった。
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