『戸惑い』

3/10
343人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「・・・」 「・・・」 「・・・え?」 何かしらの天然発言をしてくると思ったが、『で?』と来るとは予想外だ。 「そんなの自分次第だろ? 相手にどう思われてようとも犬飼は犬飼の考える野球を貫いた。今もそれは同じ。それで良いじゃんか」 呆れたように――いや、完全に呆れながら板垣が言う。 「しかしだな、俺と意見が対立してチームは――」 「バッカじゃないの。お前な“たった独り”で簡単に勝てるスポーツじゃないだろ? もっと頭使えって」 板垣に言われると無性に腹が立つ。 『たった独りで簡単に勝てるスポーツじゃないだろ?』 確かにそうだ。 そもそも俺独りがやる気になっていて、他の連中はサボるし手を抜くし、試合も途中で簡単に投げ捨てていた。 『実力が上の奴に勝てるはずないだろ?』 『な~に独りで熱血してんだよ。バカじゃないの? お前』 俺のことを厄介者のように扱っていた奴ら。 だが、違う。 俺は“数の罠”に危うくハマってしまうところだった。 『連中』がどう考えて野球をしていたかなんて関係ない。大切なのは、『俺自身』が何を考えて野球をしているかだ。 (なんだよ。こんな単純なことかよ) 中学時代に孤立していて忘れていた。 スポーツで勝とうとする、全力を尽くそうとすることが悪であるはずがない。 例え、相手がこちらよりも実力が上であろうともだ。 負ける理由をあいつらは適当に探し、自らのちっぽけなプライドを守ろうとしたが、俺は違う。 「・・・ったく、これだから単純な奴は羨ましいよ」 「それって、誉めてんのか?」 「勿論だ」 犬飼にとって、今言える最上級の誉め言葉だ。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!