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「・・・」
「・・・」
「・・・え?」
何かしらの天然発言をしてくると思ったが、『で?』と来るとは予想外だ。
「そんなの自分次第だろ? 相手にどう思われてようとも犬飼は犬飼の考える野球を貫いた。今もそれは同じ。それで良いじゃんか」
呆れたように――いや、完全に呆れながら板垣が言う。
「しかしだな、俺と意見が対立してチームは――」
「バッカじゃないの。お前な“たった独り”で簡単に勝てるスポーツじゃないだろ? もっと頭使えって」
板垣に言われると無性に腹が立つ。
『たった独りで簡単に勝てるスポーツじゃないだろ?』
確かにそうだ。
そもそも俺独りがやる気になっていて、他の連中はサボるし手を抜くし、試合も途中で簡単に投げ捨てていた。
『実力が上の奴に勝てるはずないだろ?』
『な~に独りで熱血してんだよ。バカじゃないの? お前』
俺のことを厄介者のように扱っていた奴ら。
だが、違う。
俺は“数の罠”に危うくハマってしまうところだった。
『連中』がどう考えて野球をしていたかなんて関係ない。大切なのは、『俺自身』が何を考えて野球をしているかだ。
(なんだよ。こんな単純なことかよ)
中学時代に孤立していて忘れていた。
スポーツで勝とうとする、全力を尽くそうとすることが悪であるはずがない。
例え、相手がこちらよりも実力が上であろうともだ。
負ける理由をあいつらは適当に探し、自らのちっぽけなプライドを守ろうとしたが、俺は違う。
「・・・ったく、これだから単純な奴は羨ましいよ」
「それって、誉めてんのか?」
「勿論だ」
犬飼にとって、今言える最上級の誉め言葉だ。
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