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そう思った矢先、
「お前、犬飼? 俺板垣っての。よろしくな」
フレンドリーに話かけられてしまった。
「それでさ、入試の時困っちゃってさ。筆箱にシャーペンの芯があるのにシャーペンが入って無かったの」
聞いてもいないのにマシンガントークを止めない。
「それで結局芯で全部書いたよ。いや~、あれは参った参った」
中々豪快なエピソードだ。
「で、俺中学の時は野球部にいてさ、ずっと一番でセカンド守ってたんだ」
ん?
聞き捨てならない事を言わなかったか?
野球部?
一番セカンド?
「で? 犬飼は中学の時、何部にいたの?」
「・・・野球部」
「マジマジ? どこ守ってたん?」
「・・・ショート」
「おおお、レギュラー取ったら二遊間組むやん。よろしくな、犬飼」
「・・・よろしく」
今思えば、俺はこの時既にこいつとの腐れ縁を覚悟していたのかもしれない。
この時犬飼が考えていた事は一つだった。
『この小太りメガネで一番打者が務まるのか?』
どんなチームにいたのかというよりも、こいつが一番に抜擢されるとはどんな能力の持ち主なのか。
出会って話をしてまだ10分しか経過していないが、もう出会ってしまった事を諦めさせる何かが、板垣にはあった。
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