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三郎右衛門が踏み込むと義正はすかさず抜き胴を放った。しかしそれは読んでいた三郎右衛門は紙一重の差でかわすと、再び大上段にかまえ
「おりゃぁ」
と一声うめいて、上から竹刀をおろすと見せかけ横に払った。この奇襲ともいえる太刀筋に義正は危うく逃げるのが精一杯、竹刀を持ち替え再び正眼にかまえようとした時、三郎右衛門の竹刀が頭上に迫った。これを必死の形相で横へ飛んで逃げようとしたが、次の瞬間、首筋に竹刀を突き付けられていた。
「勝負あったな」
と三郎右衛門が微かに笑いながら言うと
「いかにも。ワシの負けじゃ」
と悪びれずもせず答えた。
そこで双方再び左右にわかれ、礼をして試合は終わった。
「さ、これで汗を拭け」
と義正が手拭いを投げてよこしたので三郎右衛門も汗を拭う。
「おぬし‥強いな、ワシが一敗地にまみれたのは‥そう、本多忠勝殿以来かもしれぬ」
と義正は笑う。
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