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壊滅した研究所を後にした二人の間に会話らしい会話はなかった。黒鋭が話し掛けても、白雪はほとんど反応を見せないのだ。「何故関わろうとしないんだ」そう彼が尋ねた時に、瞬間的な動揺はあったが、やはり何も応えようとはしない。
彼女の心は、未だ人の立ち入る隙を見せない。
無理に踏み込もうとしても、溝ができてしまうだけ。
彼女の抱えているモノを知り、受け止められない限り、彼女の心に踏み入れることはできないだろう。
「貴女のお名前は」
聞き覚えのない男の声が沈黙を破った。
二人は声のした方に目を向ける。
白雪からしても、黒鋭からしても見覚えのない男。
この時、二人はまだ知らなかった。
この男が現れたことによって、白雪の闇があらわになることを。
そして、黒鋭は知らなすぎた。
彼女が受けてきた苦痛も、彼女が一人でいようとする理由も、彼女の中に住み着く、闇の存在も。
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