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彼女は俺と…―いや、俺だけじゃない。
自分以外の全ての人間と深く関わらないようにしている。
何故そうするのか、俺には分からない。
過去に何があったのか、俺は何も知らない。
研究者に捕まることもなく、能力者としては当たり前の人生をおくってきた俺には、同じ能力者の彼女に話すような過去はない。
でも、彼女には?
俺にはなくても、彼女にはあるのだろう。
あんなにも強い彼女が、自分の人生を狂わせてしまうほどの何か。
恐ろしい、恐ろしい、闇に包まれた何かが。
その闇が、こんなにも突然、明かされるなんて。
「貴女のお名前は?」
黒いスーツに身を包んだ若い男が、感情の篭っていない声色で白雪に尋ねた。
「……貴方は誰」
警戒して体を強張らせ、白雪は男の質問に答えずに、尋ねた。
「サトリと申します。写っているのは貴女ですね」
そう言ってサトリが胸ポケットから取り出したのは、一枚の写真だった。
「…!」
写真を目にし、白雪は愕然とした。
今までにない激しい動揺。
写真に写っていたのは、紛れもなく、幼い頃の自分。
だが、その写真は存在するはずがなかった。
自分が写真に写されたのは過去に一度きりであり、一枚しかない。その一枚は自分が持っているのだから。
「貴女ですね」
サトリは同じ質問を重ねる。
白雪は何も答えない。
しかし、その無言がサトリには肯定の意として取られた。
「巧馬(タクマ)様がお会いしたいそうです。来て頂けますか」
“巧馬”
サトリがその名前を口にした途端、白雪の顔から血の気が引いていった。
一歩、一歩と後退る。
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