第二話 過去と苦痛

10/10
62人が本棚に入れています
本棚に追加
/232ページ
『俺は人間の恐怖や憎しみに歪んだ目を見るのが楽しいんだ。恐怖や悲しみを隠しきれなくなった目が。だから君の表情はとても好きだったんだ』 心臓が大きく脈打ち、呼吸を上手くさせてくれない。 『煌呀を殺すことで、その瞳はさらに黒く深い闇色に染まった』 満足そうに笑う巧馬。 ―――…そんな…ことで? 白雪は心の中で呟いた。その呟きは黒鋭にも伝わっていた。 『君には自由をあげるよ。でも、いつかまた会う時が来るよ。その時はもしかしたら…君を捕まえてしまうかもね』 白雪の気持ちなんて一切関係なかった。 『逃げられるなんて思わないでね』 彼は微笑んで木々の奥へと消えて行った。 白雪の中で、何かがヒビ割れていく音がする。 ―――…ポツッ…… 涙を誘うように、無情な雨が降り出した。 コップの水を零したように、白雪の瞳からも、透明な滴が流れる。 雨音が響く中、三体の亡骸と、小さな少女が残された。 .
/232ページ

最初のコメントを投稿しよう!