第三話 選択と思惑

2/9
62人が本棚に入れています
本棚に追加
/232ページ
気が付くと、白雪の過去のビジョンは消え、現実に戻っていた。 黒鋭は呼吸を乱して崩れ込み、ワンテンポ遅れて倒れる白雪を受け止めた。 彼女の意識は朦朧としていた。 「やはり、彼女の過去は酷だったようだな」 黒鋭を見下ろして言うサトリは、白雪へ手を伸ばした。 巧馬の元へ連れて行く為に。 「…白雪は連れて行かせない」 黒鋭の鋭い眼光がサトリを射抜く。 連れて行かせない、と言った彼の声は、さっきまでとは違っていた。 唸るように低く、確かな殺気が篭っていた。 背筋を悪寒が走るのを覚え、サトリの手は白雪に触れる前に宙で止まった。頬を嫌な汗が伝う。黒鋭の眼光に捕われてから、びりびりとした寒気が全身を覆っていた。 (恐れているのか…?俺が、この男を?) 悪寒の意味を理解しない内に、自然と足が後退する。 獰猛な肉食動物に狩られる寸前の草食動物になった気分だ。 「…無駄なことだ。あの方から何かを守るなんてできはしない」 平静を保ってサトリは黒鋭を睨み返して言う。 黒鋭は巧馬の笑みを思い出し、歯を噛み締めた。 あいつさえいなければ、彼女は安らかな時間を生きられたのに。 あの悪魔のような男と出会いさえしなければ。 「彼女の傍にいれば、巧馬様の目はお前にも行く。そうなれば、お前の命は巧馬様の手の中だ。死にたくなければ関わらないことだ」 白雪が他人と関わろうとしない理由がはっきりとした。 自分と関わった人間は殺される。 だから関わらない。 だから一人でいようとするのだ。 可哀相に。 理不尽に未来を捩曲げられて。大切な者を奪われて。身勝手に玩具のように扱われて。 耐え難い精神の苦痛。 可哀相に。 「俺は彼女の傍にいる。彼女を守る」
/232ページ

最初のコメントを投稿しよう!