第三話 選択と思惑

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芯のある言葉をサトリに向けて放つ。 その言葉が以外だったのか、サトリは眉を歪め、次にハッといて口を開いた。 「同情でもしているのか?……そんな一時の感情捨てるんだな。身を滅ぼすことになるぞ」 ―――同情?…いや…違う。 「俺は誰かに同情してあげるほど優しくないよ」 彼女を可哀相だと思ったのは確かだ。 しかし、それは決して同情ではなかった。 同情は誰にでも感じる哀れみの気持ちであり、彼女に感じているモノとは違う。 彼女にだけ感じた気持ち。 彼女だから感じた気持ち。 同情なんかではない。 「俺は白雪を大切だと思ったから守るんだ。同情なんて安い感情持ち合わせてないね」 ギロリと、更に鋭い眼光でサトリを睨み、白雪を守るように自分の方へ引き寄せた。 「……お前のことは巧馬様に報告する。俺は忠告した。次に何があっても、それはお前自身の責任だ」 不満気に背を向け、サトリは振り返ることなく、早々に去って行った。 サトリの姿が見えなくなると、黒鋭は白雪を抱き上げ、彼とは逆方向へ足を進めた。 その目に怒りと決意を宿して。 彼に過去を知られてしまった。 “しまった”といっても、隠していたわけでも、知られたくなかったわけでもないが。 これでもう、私に関わろうとはしないだろう。もう、彼が命を落とす危険はなくなる。 意識が薄れていく間、そう、心の隅で安心していた。 なのに… 守るだなんて。 傍にいるだなんて。 聞き間違いかと思いもした。けれど、伝わってくる彼の体温が、そうではないと言っていた。 どうしてこんな私に。 私の過去を見たことで、殺されるかもしれないことが分かったはずだ。 それなのに何故、守るなんて、傍にいるなんて、言うのだろう。 …何故…私なんかを大切だと言うのだろう。 何故………… .
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