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白雪は無言。
「他の奴等ならともかく、俺にそんな気遣いは無用だよ」
彼女の無言をYESと受け取って、彼は話し始めた。
「俺は君が思っているよりずっと強い。殺されるつもりはない。だから君から離れる理由はない」
白雪が一番恐れている自分と関わりを持った人間の死。その心配はないというのが中心の彼の話。
白雪は俯いたまま首を横に振った。
「いくら貴方が強くても、命を狙われることに変わりはない。貴方が私の犠牲になる必要はないの」
犠牲の犠牲なんて無意味。
ましてや、出会って間もない彼がそこまでする必要などかけらもない。
こんな自分の為に犠牲になろうとしてくれる優しい彼を、苦しませてはいけない。
「犠牲?…俺が?まさか、君も俺が優しいなんて思っているのかい」
黒鋭はやれやれとうなだれ、椅子に腰掛けて足を組んだ。
白雪は横目で彼を見遣る。
「サトリって男にも言ったけど、俺は優しい人間じゃない。研究所はただ気に入らないから潰してただけだし、生まれてこのかた誰かに優しくしたこと、しようと思ったことなんてなかったんだから」
「…なら…どうして私にはあんなに…」
顔を上げ、不思議そうに黒鋭を見つめる白雪。
彼は優しかった。気遣かってくれて。サトリから守ってくれて。それのどこが優しくないと言える?
「他人なんてどうでもいいって思っていたんだ。だから人に優しくするとかがなかったし、できなかった」
彼女と理由は違えど、自分も一人で生きてきた。
元々一人が好きだったことで、孤独感や寂しさなんて微塵もなかった。一匹狼で、一人で自由に生きているのが楽しかった。
だけど、いつからか何かが足りないと思うようになった。
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