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何をしても満たされない。何かが欠落している。一体何が足りないのか見当もつかず、心に靄がかかったみたいで気持ち悪かった。
そんな時に、君と出会ったんだ。
「君にだけは優しくできた。君といると欠落感がなくなって、満ち足りた気持ちになった」
君の傍にいるのは、君の為だけではなく、自分の為でもある。
だから犠牲になるわけじゃない。
「俺には君が必要なんだ。君と一緒にいたいと思うから傍にいるんだ。犠牲とか、死ぬとか、そんなの関係ない」
シーツを握り締めている白雪の手を取り、黒鋭は細い笑みを浮かべる。
白雪は想像もしていなかった彼の言葉に絶句し、瞠目して彼を見つめた。
「俺が殺されるかもしれないのが不安なら、俺が強いってところを見せて安心させてあげる。巧馬なんて気にしなくていい。自由になっていいんだよ」
彼は何を言っても離れて行かないだろう。
それだけの強い意志と願いを瞳が放っている。
どうすればいい?
離れなければならない理由を、彼はことごとく否定し、打ち消していく。
あの日の、一人でいようという固い決意が揺れる。不要な物だと、彼の言葉に消されていく。
分からない。
もうどうすればいいのか分からない。
一人でいなければならない。
一人でいたくない。
自由になりたい。
なってはいけない。
自分で自分の気持ちが分からない。
「俺は死なないよ」
一人か二人の二択でもがく白雪に答えを差し出すように、そう何度も繰り返して彼女の手を握る黒鋭。
自分は殺されたりしない。死なない。
だから―――
一緒にいよう…と。
導かれるような感覚。
誰かに手を引かれているような。
温かい。
太陽のようなあの人と姿が似ているわけでも、笑顔が似ているわけでもない。
でも、彼も温かかった。
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