第三話 選択と思惑

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そして、今伝わってきている体温は、生きている証拠。 ここにいるという証。 二度と失いたくない。 「……死な……ない…で…」 震える小さな声が訴えるたった一つの願い。 白雪は声も出さずに、ぽろぽろと透明な滴を流し、黒鋭の手を非力ながら握り返した。 黒鋭はそっと彼女の肩に腕を回した。その体は思っていた以上に華奢で、力を入れれば壊れてしまいそうなほど弱々しかった。 「死なないよ。君と、自分自身の為に」 彼の言葉は、彼女の中でこだましていた。 彼を信じてみようか。 初めてそう思うことができた。 彼なら……信じてもいいかもしれない。 君を大切だと想う気持ち。 君を手放したくないと想う気持ち。 君の為とか、守りたいとか、決して嘘ではなく、全て本音だけど、傍にいたいって思うのは、それ以上に自分の気持ちがあったからかもしれない。 だから、「君の為」なんて詭弁で、もしかしたら、自分の為に君の弱いところに付け込んで、君が離れて行かないようにしたのかもしれない。君と一緒にいて、満たされたいが為に。 そうだとしたら、俺は巧馬よりも卑劣で、最低な人間だよね。 俺は“いい人間”ではないから、その可能性は高い。 だけど、これだけは信じてほしい。 俺は自分の為だけではなく、君の為に傍にいるんだということ。 君を苦しめたくないということ。 君を大切に想っていること。 信じてほしい。 俺の君への気持ち。 広い和室の奥。 開いている障子の向こうは庭。 白い着物を身に着けている男が、その向こうに視線を向けていた。 「戻りました」 聞こえてきた声に、視線を滑らせ、自分と反対側に位置している襖を見遣る。 「あの子はどうだった?サトリ」 襖の向こうにいる人間、サトリに男は尋ねる。
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